コロナウイルスはどのように命を奪うか?3/5
コロナウイルスはどのように命を奪うか?
~脳から足先まで全身を残忍に荒らし回る足どりを臨床医らが描きだす~
=「ヒュッテ・はなこ」コメント=
新型コロナウイルスについて、現状判明している症状やその原因についての概観記事の和訳です。長い記事ですので、5回に分けて掲載予定の3回目です。
<原文タイトル>
www.sciencemag.org
<原文掲載日>
2020年4月17日6:45PM (更新4月20日12:25PM)
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ウイルスの影響力
重症例においてSARS-CoV-2ウイルスは、肺に到達し重いダメージを与える。それだけでなく、ウイルスあるいはウイルスに対する体の反応により、多くの他の臓器にも影響がありえる。研究者たちは他の臓器への影響の範囲と性質の調査を始めている。臓器名をクリックして説明を表示する(*英文本文では図説あり)。
---図説より---
■脳
COVID-19患者の中には脳卒中や痙攣、錯乱、脳炎を起こす例がある。医師たちはこのうちどれが直接ウイルスによってひきおこされるのか解釈を試みている。
■目
特に重篤者には、結膜炎および目の表面と瞼の内側をつなぐ被膜の炎症がみられる。
■鼻
嗅覚を失う患者もいる。研究者たちは、これはウイルスが鼻の神経を先端までさかのぼり細胞にダメージを与えるためだとみている。
■肺
断面図をみると、炎症を起こした肺胞が免疫細胞に満たされ、ウイルスの攻撃により表面が破れ、酸素の摂取量が減る様子が分かる。患者には咳や発熱、呼吸困難の症状があらわれる。
■心臓および血管
ウイルス(*英文本文の図では青緑色で表示)が細胞に入る際、細胞の表面にあるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体と結合することによって、細胞の内側に張り巡らされた血管にも侵入すると考えられる。感染により血栓や心臓発作、心臓の炎症もおこりうる。
■肝臓
入院患者の半数近くから肝臓の異常を示す酵素量の数値が測定される。免疫システムの過剰反応と抗ウイルス薬によるものと考えられる。
■腎臓
重篤患者には腎臓のダメージがみられ、より命の危機に近づかせるものである。ウイルスが直接腎臓を攻撃する可能性もあれば、血圧の急降下のような全身症状の結果として腎臓に症状があらわれる可能性もある。
■腸
症例報告および生検データによると、ウイルスは下部胃腸管にも感染することを示している。下部胃腸管にもACE2受容体が多く分布している。約20%超の患者に下痢の症状がみられる。
---図説おわり---
臨床医の中には、重症化の多くはウイルス感染を引き金として起こる"サイトカインストーム”とよばれる、免疫システムの破滅的な過剰反応によるものではないかと疑っている医師たちもいる。サイトカインとは健全な免疫反応を誘導する化学シグナル伝達分子である。サイトカインストーム下では、特定のサイトカインの数値が過剰に高騰し、免疫細胞が健康な組織を攻撃し始めてしまう。結果として血管から血液が漏れて血圧が下がり、血栓ができ、壊滅的な臓器不全が引き起こされる。
いくつかの研究では、COVID-19の入院患者の血液中で、これらの炎症誘導性のサイトカインの数値が高いことが示されてきた。テンプル大学病院でCOVID-19患者の治療にあたる呼吸器科医のジェイミー ガーフィールド氏は「この病気の罹患率および死亡率の迫真性は、ウイルスに対するこの非常な炎症反応に因るのだろう」という。
しかし、まだ確信はできないとする研究者もいる。「COVID-19とこの異常な炎症状態を結びつけようとする急速な動きがあるようだが、私は、その通りだと確証をもてるデータをまだ見ていない」とスタンフォード大学医学部の呼吸器科集中治療専門医 ジョセフ レヴィット氏はいう。
彼はまた、サイトカインの反応を抑えようとする行為が裏目に出ることを心配している。COVID-19患者に対して、特定のサイトカインをターゲットとした薬がいくつか試用されている。レヴィット氏は、体がウイルスを撃退するのに必要な免疫反応をこれらの薬が抑圧してしまうのではないかと恐れている。「ウイルスの複製を増長させてしまうという現実的なリスクがある。」
一方で、まったく別の臓器システムに注目している研究者たちもいる。急激な悪化に心臓と血管が関係しているというのだ。