コンサート業界がライブショーや音楽制作について再考するとき

COVID-19 アーティストからツアー マネージャーまで、コンサート業界がライブショーや音楽制作について再考するとき

 

=「ヒュッテ・はなこ」コメント=

米国ABCニュース オンライン記事より、5/14にドライブインの形で行われたライブコンサートをきっかけに、コロナ禍の影響下でのライブコンサートについて書かれた記事です。

<原文タイトル>

abcnews.go.com


<原文掲載日>
2020年5月17日2:33AM

そのショーは、カントリー音楽のスター、キース アーバンにとって、今までにない体験であった。

 

大きな会館やフットボール場に立ち並ぶ代わりに、このサプライズ公演の観客たちは、それぞれ6フィートの距離を保って駐車した車内から『We Were*』の歌手を鑑賞した。この公演の観客たちは全員ヘルスケア業務の従事者だった。
(*訳注:『We Were』はキース アーバンの代表曲のひとつ。)

 

「演奏していて、とても素晴らしい気分だった。」「人々は警笛を鳴らし、ヘッドライトをチカチカさせていた…本当に神秘的だった。」とアーバンは言った。

 

アーバンが演奏した木曜のサプライズ公演は、テネシー州ナッシュビルから東に40マイルほどに位置するスターダスト ドライブイン映画館で行われた。彼はパンデミックが始まって以降、観客の前で最初に演奏したアーティストの1人となった。

 

125台近くの車が駐車場を埋め尽くした。この公演は一般には告知されておらず、ヴァンダービルト大学医療センターのヴァンダービルト ヘルスに務める医師や看護師、救急救命士およびスタッフたちだけのための公演だった。

 

「我々はドライブイン公演のアイデアを一か月以上前から考えていた。」とアーバンは言う。「ドライブイン会場は、車の中の人々に向けて演奏するという意味でとても分かりやすい。皆との距離をとって安全な環境を保つことができる。会場はすでに出来ているのだ。」


「我々はどうやって安全に実現するか、考え始めた」とアーバンは続ける。「スタッフは最小限にできるだろう。ステージにのるミュージシャンも然り。単純に、すべてを非常に最小限度にしなければいけない。」

 

アーバンと彼のスタッフがコンサートをこの体制で開催しようと決めたことは、ライブ音楽業界が現状のパンデミックの渦中で足がかりを模索する中、大きな第一歩となった。

 

「ただ立ち止まって何もしないという選択肢は無かった。」とアーバンは言う。「どのように着実に、筋道をたてて前進するか。自分たちのためでなく観客のためにも。観客はそこにいて、観に来たいと思っている。ただ、安全ですべてが考え抜かれているということを感じたいとも思っている。」

 

コンサートやフェスティバルも全国的な自宅待機要請の影響を免れることはできなかった。音楽業界は、業界誌のポールスター誌によると、チケット収入で90億ドルの損失を見込んでいる。

大物の芸能人の中には、新たな適応方法を模索し、ファンとつながろうとしている。

 

ドジャ キャットの歌『Say So』はTikTokのダンス好きたちによってヒット曲第1位となった。アリアナ グランデやジャスティン ビーバー、ドレイクは外出自粛をテーマにした動画を作成した。有名なDJたちは自宅をナイトクラブかのようにしてダンス曲をライブ ストリーム配信した。

 

「アーティストたちが芸能人であることを自覚し続け、人々をまとめようとし続けていることは、1つ素晴らしいことです」とピッチフォーク誌のチーフ編集者プジャ ペーテルは言う。「カーディ・Bからディプロまで、皆がインスタライブを乗っ取り、トラヴィス スコットはフォートナイト内でコンサートをしました。」


「多くのミュージシャンがファンのために一丸となって、ファンが今彼らを必要としていることを知るのを見ることができるのは、とても素敵なことです。そしてミュージシャンもそのような逃げ道が必要なのです。」

 

ペーテルは、皆が自宅に籠っている今現在、ライブ ストリーミングはアーティストにとって重要だと言う。

 

「非常に多くの人々がエンターテイメントを求めてモバイル機器に注目しています。」「こうして私たちは乗り越えるでしょう。でも、ライブ音楽は観客と対面する形で戻ってくると信じています。今は、モバイル機器上のショーが、我たちを前進させてくれる方法なのだと思います。」

 

D・ナイスという芸名で活動するデリック ジョーンズは、『自宅隔離クラブ』という一連のライブストリーミングを何時間も続けて配信し、10,000人もの視聴者を獲得してインターネットを沸かせ、ヒーローと呼ばれた。そこにはミシェル オバマ、カーダシアン家、マーク ザッカーバーグもゲスト出演した。

 

「DJを始めた瞬間、エネルギーが全く違うと感じたんだ。本当のパーティーのような気分になった。」とジョーンズは言う。「そしてコメントを読み上げて、ああ、僕はエネルギーを生み出していたんだって言う。実際、みんなの言っていることからしても、確かに僕はエネルギーを感じたんだ。」

 

「その瞬間、これはずっといけるぞ、と感じた。」とジョーンズは続ける。「これが今できることは素晴らしいことだし、断然、続いていく。」

 

しかし、ツアーで大観衆の前で演奏することでキャリアを築いてきたアーティストにとって、これは通常どおりではないという。

 

パンデミック前には、数日おきに飛行機に乗っていた。至るところでコンサートをしていたからね。」とジョーンズは言う。「パンデミックが発生した途端、家でじっとしていなければならなくなった。正直に言って、どうしたら良いか分からなかった。今までほとんど居なかったから、自分の住居だっていうことすら忘れかけていたからね。」

これは音楽業界に従事する人々に共通する感情である。長期公演のマネージャーであるクリス グラトンは、パンデミックの中で忘れられつつある人々が業界には大勢いると言う。

 

パンデミックは、米国のライブ エンターテイメント業界だけで、まさに1,200万もの人々に影響を与えた。」とグラトンは言う。「ローディだけでなく、ケータリングスタッフ、ポップコーンを作る人、会場案内の人、駐車場警備の人たちも影響を受けている。」


こうした縁の下の力持ちたちこそが、最も影響を受けている、とグラトンは言う。

「僕らはスタジオに行き、アーティスト、ダンサー、振付師やデザイナーと一日中仕事をする。セットリストを通したり、すべてを進めるんだ。」

グラトンたちのチームは金曜にシアトルにてジャスティン ビーバーのツアー「Changes」をスタートする予定だったという。

 

「今日はプロダクション リハーサルの最終日の予定だったんだ。」「今日プロダクション ミーティングをしていないということは、僕らにとってなんだか悲しい気がするよ。でも、また僕らの出番が来るだろう。僕らは戻ってくるよ。」

 

グラトンは30年以上ローディーをしており、アリアナ グランデ、カニエ ウェスト、J・バルヴィンらと仕事をしてきたが、このようなことになったのは初めてだという。

 

「唯一、少しでも似た状況といえるのは9.11だろうか。」「みんな飛行機に乗るのを怖がっていたから、公演を数週間延期したりキャンセルしたりした。だけど数週間だけ、最大でも1か月だった。そして皆通常に戻った。あれは怖い経験ではあったが、今の状況に少しでも近いといえるのはあの時くらいだよ。」

 

グラトンは1年のうち10か月ほどをツアーの道中で過ごす。今、グラトンとチーム87人の従業員には仕事がない。グラトンはスタッフとその家族が食べていけるか心配をしている。

 

「僕らはそれほどの状況に直面するだろう。個人請負契約で働いている者は毎回の小切手を頼りに生活していることが多い。一番の稼ぎ年から一晩にして無収入になってしまった。」

 

グラトンは仕事に戻りたいと思っているが、物事が通常に戻るまでには長ければ2年かかるだろうと考えている。

 

「単にショーを行うだけの問題ではない。」とグラトンは言う。「駐車場をどうするか?整列をどうするか?搬入トラックから、沢山の重い機材をどのように積み下ろすか?6フィートの距離をとらなければならない、マスクをした状態で。。」

 

「僕はドラムの音が聴きたい。」とグラトンは続ける。「分かるだろ、音楽を感じたいんだ。ジャスティン ビーバーの楽屋のドアを開けて、『Baby』が始まった瞬間、女の子たちが熱狂する。これはコンピュータからは得られない体験だ。ライブ音楽より良いものはないし、実際、僕ら皆が分かりあえる唯一の言語なんだ。僕らはそれを取り戻さなければいけないし、もちろん、戻ってくるだろう。」

 

これは業界にとって、過去にない重大な後退要素となる。ペーテルは、今の時期が後々、「歴史上で音楽にとって重要な瞬間」の1つとして記憶されると考えている。

 

「この期間に出てくる音楽は、コロナウイルス音楽として永遠に記憶されるでしょう。」とペーテルは言う。

 

アーバンは、ステージに戻ることができて「特別な」気分だったとしながらも、ファンと直接会って挨拶をし、握手をできないことを寂しく思うという。

 

「なくて寂しいと思うことは沢山ある。」「観客との物理的な結びつきが欲しいんだ。観客と演奏し激しく踊れるようになるのはいつになるか分からない。沢山の車のヘッドライトは、激しく踊る客席とはかなり違う。」

 

「僕はステージ上で、すぐ下にいる観客から多くのエネルギーをもらい、そこには全員のエネルギーが含まれている。それが恋しいのだ。」